Sequence 11

23/23
1126人が本棚に入れています
本棚に追加
/526ページ
「盗聴は止めさせる。機械もすぐに外すから警察には……」  後ろ首を掴まれて強引に捻じられた。顔を突き合わせることは叶ったが、睨み一つで人を殺傷するんじゃなかろうかって鋭い目を向けられ、後の言葉は続かなかった。 「訴えないでほしい?」  問われて、俺は頷くほかなかった。  説得は難しそうに見えた順平が「いいよ」と言う。拘束が解け、俺はふらふらと後ろに一、ニ歩下がった。 「え……?」 「今回は見逃してあげる。その代わり……」  カウンターから離れてまっすぐ立った順平は、俺ではなく何も映さない黒い窓をじっと見つめている。猛獣のような危険な目ではなく、何を考えているか分からない虚ろな目だった。 「ストーカーの事と俺の仕事の事、今後一切口を出さないって約束をして。そうしたら盗聴器は無かった事にしてあげる」  順平の思惑に気が付き、目の前が真っ暗になった。  盗聴器は順平の切り札だったに違いない。俺の口を封じ、絶対服従させるための格好のネタだ。それをこのタイミングで使うのか……。 「……そこまでして仕事の事に踏み込んでほしくないのか?」  にわかには理解できなかった。俺は順平の全てを知りたいわけじゃない。何でも話し合える、信頼し合える関係でいたいだけだ。  順平は俺の方を見ないまま、迷いのない様子で「うん」と答える。順平好みの艶めかしい台詞に言い換えた所で、俺の想いは届きそうになかった。  俺と順平の間に深い断崖があるようだった。姿が見えるのに近付けない、声が届くのに心は通わない、越えることの許されない隔たり。  ―――いつからこんな状態だったんだろう。  今までで一番、順平が遠くに感じる。
/526ページ

最初のコメントを投稿しよう!