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「ふざけんな。ディレクターいらねえだろ。てめえらで勝手に撮れよ」
本音が漏れた。影山が小さく吹き出す。
「そんな条件でよく磯崎さんがOKを出してくれましたね」
嫌味で言ったのに、影山は「磯崎さんにはクライアントを伝えているからな」と飄々と返してくる。
「さすがの俺も、あの人にシークレットの仕事は頼めないよ」
「喧嘩売ってんのか、オッサン。プロデューサーに話せてディレクターに話せないってどういう事だ。現場で動くのは俺達なんだぞ」
「だよなー」
影山が苦笑いを浮かべる。作品のためなら平気でスタッフに無茶ぶりをする人だが、今回ばかりは後ろめたい気持ちがあるようだ。
「二日間とも現場の指揮は俺が取るからさ、当日はお前達の誰か一人がサポートで付いてくれればいいよ。でも朝生はできるだけ顔を出してくれよな。制作会社の面子が立たないだろ」
「……分かってます」
頭では理解していても面白くないものは面白くなかった。仕事の内容もさることながら、実名を出さないとはいえ影山洋二がこんなつまらない仕事のために奔走し、俺のご機嫌伺いまでするなんて、なんだか無性に腹立たしい。
「ところでさ、順平くんはどうしてる?」
「え?」
唐突に話しが切り替わった。影山の用件がスケジュールの確認だけだと思っていたから、探るような視線を向けられて戸惑う。
「どう、とは……?」
「帰ってきてから一度も会っていないから元気にしてるのかなあ、と思って。もし時間が合うようなら話したいことがあるし」
影山は世間話でもするように淡々としていた。一人で動揺しているのが馬鹿らしくなる。
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