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「それなら自分から連絡してみればいいじゃないですか。暫くこっちにいると言ってたから」
コーラのペットボトルを脇に挟み、フォンダンショコラ風の蒸しパンの袋を開けた。パン自体がダークチョコレートみたいに真っ黒で、カカオの濃厚な甘い香りが漂う。
影山は目をパチクリさせ、「お前がいるのに勝手はできないだろ」と言う。
「アンタ、順平の連絡先を知ってますよね。わざわざ俺を通さなくてもいいでしょう」
黒い蒸しパンに齧り付く。ドロドロに溶けたチョコレートクリームを零さなように10秒ほどで全部胃に収めた。こってり甘くて胃袋も心も満たされる。
「俺がお前に断り無く順平くんと連絡を取っていたら嫌だろ?」
影山が怪訝な顔をしていた。
俺は口の端を親指の腹で拭いながら首を傾けた。
「別に。嫌ではありませんけど」
俺は、影山と順平がずっと前からメールを送り合う仲だと知っている。確か、俺が影山の身勝手さに腹を立てて完全に無視を続けていた時も、影山は順平からは受賞祝いのメッセージが届いたと言っていた。順平は海外にいる時にたまに影山から安否確認のメールが届くと言っていた。今更遠慮される方が怪しいだろ。
「この前も思ったけど、お前そういう所が淡泊だよな。順平くんが誰と会って、何をしているか、気にならないのか?」
溜息交じりの苦言を吐かれる。こういう時、俺の回答はいつも決まっていた。
「気になりません」
これを言うと、質問者はだいたい驚くか、呆れる。影山は後者だった。
「そんなんでお前らよく関係が続くな。普通ならとっくに破局してるぞ」
そうかな? 断言されたのが腑に落ちず、俺は再び首を傾けた。
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