Sequence 12

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「勘弁してくれ……」  昨日といい、今日といい、立て続けにいったい何なんだ。俺が何をした。プライベートは今までうまくいっていたじゃないか。順平とのことは影山には関係ないだろ。なんでよりによってアンタが不安を煽るんだ。  俺が額を押さえて俯くと、影山は「何かあったのか?」と心配そうに聞いてくる。  逆に「アンタは何を知っているんだ?」と問い質したかった。しかし気持ちが塞いでいて言葉にならない。知るのが怖いと思ってしまった。 「朝生?」  近付いてきた影山が下から覗きこんでくる。  目を合わせたくなくて顔を背けると、腕を引っ張られ、首に太い腕が巻き付いた。 「えっ?」  鼻先が影山の肩にぶつかった。眼鏡がズレて景色が歪む。それらが二の次になるくらい、肩を締め付ける力強さに驚かされた。  胸の右側からトク、トクと鼓動が聞こえる。俺の心臓の音ではない。 「ワー! いきなり何をするんですか!」  頭が状況を整理する前に、影山の身体を押し退けていた。  後ろに一歩下がった影山は、特に恥ずかしがる様子も無く「お前が泣きそうな顔をするからだろ」と言って両腕を広げる。それはいったい何のポーズだ。発火した身体が一瞬のうちに冷めた。 「止めて下さい。気持ち悪い」 「なんだよ、その言い草は。せっかく俺が胸を貸してやろうとしてるのに、可愛くない奴だな」 「なんで俺がアンタの胸を借りなきゃいけないんだ」 「じゃあ誰の胸なら借りるんだ。磯崎さんか? 梶さんか?」  この人は何を怒っているんだろう。どうして俺がオッサン達の胸を借りなきゃいけないんだ。意味が分からない。  影山は不貞腐れ気味に「男が泣く時はパイセンの胸って決まってるんだよ」と横暴に言い放つ。35年生きてきて初めて聞いた。
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