Sequence 12

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「胸を借りるなら夕海子さんがいいです」 「お前ゲイなのに夕海子がいいのか?」  影山が不満そうに眉を寄せる。  ……今の話にゲイは関係ないだろ。調子に乗りやすいオッサン達の胸を借りるよりはマシだ。  正直なことを言ったらまた影山が騒ぎ出しそうなので黙ってやり過ごす事にした。影山はそれも気に入らないようで、「なんで俺より夕海子の方がいいだよ!」と憤慨している。どっちにしても面倒くさい。 「ほら!」  影山がブリーフケースから取り出したものを俺に突き出してくる。大判の白い封筒だ。 「なんですか?」 「俺の気が変わらないうちに早く受け取れ。お前が知りたがっているものだ」  ドクンと心臓が不整脈を打った。  影山の強い眼差しに促されて封筒を受け取る。封は閉じられておらず、中には1センチ幅ほどのファイルが入っていた。 「撮影まであと10日弱、頼むから撮影が終わるまで恋人と険悪になるような事だけはしてくれるなよ」  命令に近い言葉だった。  撮影と順平がどう関係するというのか。俺は仕事に私情を挟んで失敗するようなヘマはしない。注意を受けるのは不本意だった。  影山の発言に納得できないまま、封筒からファイルを取り出した。表紙のタイトルより先に目を奪われたのは、下部に印字された社名だった。 「鷹東、商事……」  それ以上は言葉にならなかった。  顔を上げると、影山がゆっくり頷いた。 「そう。この国で五本の指に入る大手総合商社の一つだ。あと―――」  影山にファイルを奪われた。慣れた手つきでパラパラと捲り、中程のページを俺の前で広げた。そこには『インタビュイー候補一覧』の見出しがある。 「順平くんが勤めている会社だ」  候補者名簿の中に『高幡順平』の名前を見つけた。
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