Sequence 13

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 東京駅の北側、再開発事業が相次ぐ一画で3年前に地上38階建の大型オフィスビルが完成した。地下に駅直結の連絡通路があるほか、地上にはフリーマーケットやフードフェス等のイベントが開催できる広場が整備されていて、都心のビジネス街とは思えない開放的で緑の多い環境となっている。  このビルの床面積約45パーセントを占めるキーテナントが、国内屈指の総合商社である『鷹東商事』だ。  青々と茂ったケヤキ並木の道路脇にホイールバランスの悪いワンボックスカーが止まったのは、高速道路を下りて約5分後のことだった。 「朝生さん、着きましたよ。ココでいいんですか?」 「ああ、ありがとう。遠回りさせて悪かったな」  助手席のドアを開けた途端に、暑い陽射しと蝉の発狂に襲われて目眩がした。 「大丈夫ですか? 車に酔いました?」  ワンボックスカーを運転していたロケコーディネーター見習いの若い男性スタッフが心配そうに聞いてくる。短い金髪頭で、顔中にピアスがあって、両腕両足に蔦が張るようなタトゥ―を入れているが、誰に対しても低姿勢で、気遣いができ、仕事をきっちりこなす真面目な奴だ。目上の人間を敬う態度はうちの部下達に見習わせたい。 「この車、スピードが出ないくせに揺れるんですよ。整備が不十分でスミマセン」 「車の中で資料を読んでいたのは俺だから、気にしないでくれ。今日は助かったよ。来週の本番も頼むな。この時期は天候が読みにくいから撮影に同行してくれるだけで助かる」 「へへ。俺みたいな見習いで役に立つなら嬉しいです」  口の両端にぶら下げたリングピアスを揺らしながら照れ臭そうに笑った。  外に出て、貨物室と化している後部座席から黒のサマージャケットとブリーフケースを引っ張り出した。スライド式のドアを閉めたところで助手席側の窓が開き、「すげえな……」という感嘆の声が漏れ聞こえた。 「俺もいつかこんな所で仕事がしてみたいな」  キラキラした目が、晴天の中に聳え立つビルを仰いでいた。
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