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緑いっぱいの広場を横断し、ビルの入口に到着できたのは車を降りた10分後だった。
目的地はドンと見えているのに、広場内の通路がくねくねと曲がっていて分かりづらかった。こんなことなら一度地下に下りればよかったと激しく後悔する。
「瑠珂さん」
エントランスに入ってすぐ、受付カウンターの横で待ち構える阿南が手を上げた。
約8千人のビジネスワーカーを収容するだけあってエントランスもただっ広く、端から端まで移動するにも時間がかかりそうだった。げんなりしながら歩き出すと、阿南が駈け寄ってくる。
「お疲れ様です」
「おう。そっちの方は順調か?」
「朝から天気が良かったので屋外の撮影は午前中にほぼ終了しました。今は室内撮影の準備を進めていますが、みんな慣れない機材に手間取っていてカメラテストもまだ行えない状況です」
「外はどうやって撮ったんだ?」
「打ち合わせをしないうちに影山さんと亜沙利さんがカメラを回し始めたんですよ。なんなんですか、あの二人」
阿南が面白くなさそうに眦を吊り上げた。
「ははっ。あの人達らしいな」
「笑い事じゃないですよ。打ち合わせが不十分だから裏方の俺達がてんやわんやです」
「あの二人が同時に動くってことは撮影チャンスだったんだろ。いい画は撮れたか?」
阿南はムスッとしたまま「ええ」と頷いた。不貞腐れている阿南を見ていたら、無駄に歩かされて損をした気分は薄れた。
阿南の後ろに付いて来たパンツスーツの女性が一歩前に出てくる。
「初めまして、広報部採用広報担当の桜木谷と申します。本日は宜しくお願いします」
つぶらな瞳が印象的の和風美女に丁寧なお辞儀をされ、慌てて頭を下げ返した。
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