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「良くないですよ。国内シェア率の低いベンモーデン社の機材を一式揃えたのは彼女ですよ? 俺達よりも扱い方に詳しい」
「それは頼もしいな」
「他の事業との兼ね合いで選択の余地が無かったとか言ってますけど、そもそも自分達で撮らないのに機材だけ用意するって、どんだけ金が余ってるんですか」
カリカリしている阿南が、先々週の自分と重なって見えた。お前の言いたい事は分かるよ、でもな……。影山と同じような事を言い出そうとしている自分に笑えてくる。
「あっちにはあっちの事情があるんだろ。撮影二日前の夕方にようやく情報解禁してくる強者だ。なるようにしかならないだろ」
俺が開き直れば阿南も少しは気が楽になるかと思ったが、逆に渋い顔をされた。
「瑠珂さん、40分のセミナー動画を二日間で撮りきれると思いますか?」
「思わない。でも影山がそう段取りしたんだ。なんとかするんじゃねえの?」
「……。これはあくまで俺の予測ですけど、この仕事、途中まで別の会社が撮ってましたよ」
「マジか?」
横を向くと、阿南が前を見据えたまま一回頷いた。
確証の無い事で阿南が腹を立てるとは思えない。それに阿南の推測が正しければ、情報規制の意味も、無理なスケジュール敢行も、構成や台本が既に用意されている謎も、すべて辻褄が合う。
「あの人、仕事を横取りしたのか?」
「或いは、鷹東側が影山さんに鞍替えしたか」
他の会社から仕事を奪うとか、出し抜くとか、そんな面倒臭いことに俺達を巻き込まないでほしい。
無意識のうちに吐き出した溜息が、阿南とシンクロした。
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