Sequence 13

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 撮影準備が行われている部屋に入って絶句した。  慣れない機材に技術スタッフ達が四苦八苦しているだろうことは予測していたが、至る所で混乱と不調和が起きていて殺気立っている。 「なんだ、これは……」  戦場のような部屋をぐるりと見回したところで、「朝生」と呼ばれた。ホクホク顔の亜沙利がこっちに来いと手招きしている。 「見て、見て。ベンモーデン社の最新8Kカムコーダ。かっこいいの」  現場の混乱そっちの気で黒光りするカムコーダに夢中だった。カメラ馬鹿め。  言いたい文句は山ほどあるが、三脚に鎮座したカメラを一目見た途端、亜沙利が興奮するのに納得した。角ばった所が少ないシンプルでスタイリッシュなボディ。そのぶん機能が限定されていてカスタマイズしにくいようだが、軽量化されているので肩に担いでも負担は少ないと聞く。 「使いこなせそうか?」 「ベーシックなデジタル撮りは問題ない。この狭い空間で8Kの画質は必要ないからな。椅子より窓の外を映したいよ」  薄ら笑いを浮かべて皮肉を零す。  亜沙利の髪は燃えるような紅色から夜空のような紫黒色に変わり、前髪を七三に撫でつけていた。一応コイツでもクライアントに配慮して身だしなみを整えるという心意気はあるようだ。 「監督は何処にいる?」 「影山さん? そういえば昼からこっち見てないな」  亜沙利は首を傾けてのほほんと答える。カメラ一つを持って事故現場に突っ込んでいく奴だ。カメラ以外のセッティングに興味はないらしい。  「朝生さ~ん」  涙声が聞こえると同時に横から白くて太い腕が腰に巻き付いた。165センチの俺の脇の下に小さな頭がある。
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