Sequence 13

7/46
前へ
/526ページ
次へ
万知(まち)、どうした?」  ウィズビジョンの音響効果マン、入福浜万知(いりふくはままち)。身長145センチ、体重は非公開だが数値的には俺とそう変わらないだろうと分かるくらいポッチャリしている。愛嬌のある大きな目をしていて『癒しのハムスター』という呼び名があるが、ミニブタの方がシックリくる。年上年下関係なく幅広い層から愛される30歳の女性スタッフだ。 「イコライザーの設定が難しいよー。思いどおりの音にならないよー」 「インタビューを撮るだけのシンクロ撮影なんだから加工する必要はねえだろ。生声でいいよ」 「朝生さん、分かってない! セミナー用のPVは音が大事なんですよ! 音が良く無きゃ誰も観てくれないんですよ! わずかなノイズが入るだけで、また後から影山さんに差し替えを要求されるんですよー!」  グローブのような拳でドスドスと腹や背中を殴られた。痛くはないが、うざったい。 「朝生さん、椅子の座面が色つきなんですよ。これ、衣装の色とボケませんか?」  今度は美術アシスタントの鯨津帆高(ときつほだか)がやってきた。25歳のまだペーペーのくせに一丁前に意見してくる生意気な男だ。目つきが悪く、日焼けした褐色の肌と発達した二の腕の筋肉が憎たらしいほど男らしい。 「俺に言うな。スタイリストに相談しろ」 「この現場にスタイリストなんていないですよ。インタビュイーは各自、自前の服でやるんでしょう?」  年下に呆れた目を向けられてイラッとした。 「どうボケる?」  亜沙利が横から割って入る。  鯨津は同じ事務所の先輩である亜沙利が苦手のようで、目つきが更に険しくなった。 「クラシカルで上等な椅子だけど座面が濃紺だと男性スーツの色と被ります。バストアップの画だけ撮るならいいですけど」 「確かにそうだな。じゃあ何色ならいいの?」
/526ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1144人が本棚に入れています
本棚に追加