Sequence 13

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 亜沙利、いいかげん万知を放してやれ……。そう注意しようとした時に、ドアの方から鯨津が大声で叫んだ。 「朝生さん、さっきのは言葉が悪かったです! 失礼しましたっ!」 「お、おう……」  腹に響く体育会系の声に、室内のピリピリした空気が吹き飛ばされた。  真面目な奴だ。なんであんな実直な後進を逆撫でするのか。体育会系とは程遠い、白くてひょろひょろした亜沙利の後ろ襟を引っ張った。  万知を放せ。あと、後輩を指導する時は目を見て話せ。耳元で注意すると、亜沙利は反抗的に顔をプイと背ける。若いスタッフより扱いにくい。  その後も次から次にスタッフが寄って来て、機材の使い方が分からないとか、弁当が美味しくないとか、広報の女性がめちゃ好みですとか、どうでもいい話をしてくる。 「影山はどこだ!?」  我慢が切れて吠えていた。指揮をする人間がいないから、みんながバラバラなことを考えて行動する。これでは纏まるものも纏まらない。  そして誰に尋ねても影山の居所を知らなかった。その人物のサポートを頼んでいる渚と三浦も「昼休憩からずっと姿を見ないです」と言われる。最悪だ……。 「七瀬」  最後の頼みの綱は、室内の中央で黙々とLEDライトの調整を行っていた。七瀬はライティング術に長けているだけでなく、現場全体の動きを把握し、人を動かす才を兼ね備えている。 「影山さんとうちのADを知らないか?」  俺と七瀬の間にはやや距離があったが、目が合ったから聞こえた筈だ。しかし七瀬は顔を背けて聞こえない振りをした。 「おい」 「うわ! びっくりした。急に後ろに立たないで下さいよ」 「お前がシカトするからだろ。影山さんはどこに居る?」  七瀬はムッと顔を顰め、「知りません」とツンケンな返事をした。コイツが塩対応なのはいつものことだが、今日はいつも以上に険がある。
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