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「お前も機嫌が悪いのか? 勘弁してくれよ」
「別に普通ですけど。ちょっと、勝手にライトに触らないで。セッティング中なんだから」
フィルインライトの本体に少し触れただけで、七瀬は目くじらを立てて怒鳴った。おっかない。
「どう見ても不機嫌機じゃん。何かあったのか?」
「私に構ってないで早く影山さんを見つけて来て下さいよ。そっちの方が先でしょ」
ごもっとも……。と言いたい所だが、スケジュールがタイトななかでこれ以上ご機嫌斜めのスタッフを増やすわけにはいかない。
「俺達ディレクターが不甲斐ないからお前らに迷惑をかけているのは百も承知だ。後でいくらでも詫びはするから今は切り替えてくれ。全体を見れるのはお前しかいない」
「阿南さんがいるじゃん」
「アイツはそろそろ別の現場に移動しなきゃいけないんだ。……ってアイツ、何をやってるんだ?」
阿南は部屋の隅でスタッフと桜木谷に囲まれ、何やら質問攻めに遭っている。
「朝からずっとあんな感じです。美人の広報さんが色々質問してくるみたいで、ろくに仕事をさせてもらえてないですよ。なっさけない」
七瀬が苦言を零す。阿南の機嫌が悪いのはそういう理由もあったか。
「七瀬、頼むよ」
「断る。それは私の仕事じゃない」
全部を言い切らないうちに跳ね除けられた。七瀬の態度は頑なで、頼み込む隙が無い。
「朝生さん!」
困り果てた所に三浦が現れた。手にトランシーバーを持ったまま駆け寄ってくる。
「上のフロアで影山さんがお待ちです。早く来て下さい」
「は!?」
急に腕を引かれて足が縺れそうになった。
三浦の切羽詰まった顔を見れば尋常ならざる事が起きていると察しがつくが、俺は足を踏ん張り三浦の手を振り払った。
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