Sequence 13

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「下ではスタッフが大混乱じゃねえか。お前、あの状況を見たか?」 「阿南さんがいるから大丈夫かなあ、と思って……。それに瑠珂さんが影山さんをずっと見張れって言ったんじゃないですか」  渚は部屋の中央部、スーツのオッサン達に囲まれて引き攣った愛想笑いを浮かべている影山を指差し、「朝からずっと影山さんを見張っています」と胸を張った。 「ああいう状況を回避しろという意味で見張れって言ったんだよ、バカ! ホントにバカだな、お前」  ちょっと背伸びをして渚の石頭をペシリと叩いた。渚の目が点になっている。もはや三浦からの非難も入らない。 「朝生さんの到着を待って明日の打ち合わせを始める手筈になっています。どうぞ、中へお進みください」  桜木谷に促されて影山がいる輪に近付いた。影山が俺達に気付き、助けを求めるように「朝生!」と手を上げる。43歳のオッサンが必死だ。 「部長、3DIAの朝生さんをお連れ致しました」  桜木谷が畏まった声で手前の中年男性に話しかけた。  影山を囲っていた面々から笑顔を向けられる。名刺交換が始まって、広報部長、CFO、CAO、エネルギーカンパニープレジデント、繊維カンパニープレジデント、金融カンパニープレジデント兼専務執行役員、代表取締役……と仰々しい肩書が続き、徐々に身体が硬直していった。オッサン達の陽気な笑顔に危うく騙されるところだった。見た目だけでは侮れない。  最後に名刺を渡した人物、東アジア総合代表兼専務執行役員の石蕗(つわぶき)という男が、「君が影山くんの秘蔵っ子か。会えて嬉しいよ」と握手を求めてきた。こういう評価を忌み嫌う俺も、さすがに空気に呑まれて「ありがとうございます」と握手に応じていた。
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