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「皆さんお揃いですので、そろそろ明日の打ち合わせを始めましょうか?」
「そうだな、頼むよ」
桜木谷と広報部長の会話をきっかけに、役職の方々が「おーい。そろそろ会議を始めるってよ」と周りに呼び掛け、室内は一斉に撤収の動きに変わった。
横目で影山を見ると、影山もバツの悪そうな顔でこちらを伺っていた。
「相変わらず肩書のある人間に弱いですね」
「悪かったな。どうせ俺は小心者だよ」
いい歳をした大人が不貞腐れる。良くも悪くもこの人の変わらない一面を見ると、毎回むず痒い気持ちにさせられる。
「いい加減、自分も肩書のある人間だと自覚したらどうですか」
「俺一人の個人事務所じゃあ箔が無いだろ」
自嘲気味にヘラリと笑う。
その個人に仕事を任せたいと、一緒に仕事がしたいと、思う人達が沢山いる。会社の大きさは関係ないだろ、バカ……。
「瑠珂」
斜め後ろから耳に馴染んだ甘ったるい声が聞こえた。先に反応した影山が後ろをチラリと見やり、何も言わず離れて行く。
身体が硬い。後ろを振り返るだけなのに全神経が緊張していた。
「順平……」
優しげな笑みを貼り付けて順平がゆっくり近付いてくる。
シャドーストライプのブルースーツは胸板の厚さと腰周りのラインを強調させていた。スーツと同系色のネクタイ、水色のシャツを合わせていて、ブランドショップのショーウインドウからそのまま抜け出してきたかのように凛として眩い。
順平のスーツ姿は見慣れている筈なのに、なんだか別次元の生き物のようで、不覚にも見惚れてしまった。
「やっと会えたね」
近すぎず遠すぎずの距離で止まる。
表情は笑っているのに、声には棘が含まれているような気がした。
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