Sequence 14

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「お前が今日旅立つって言うから帰って来たんだろ」  本当は昨日の夜に帰ってきたかったが、収録が25時、編集が27時までかかってしまい、気付いたら潮汐の柔らかい二の腕を枕にして寝ていた。そして飛び起きてすぐ、家に帰って来たというわけだ。  別に、順平を喜ばせようとか、驚かせようとか、そんな期待を抱いていたわけではないが、「忙しいのにわざわざ帰って来たの?」と言われるとガッカリする。 「今度はいつ帰ってくるか分からないんだろ? お前の顔を見ておこうと思っちゃいけないのかよ」 「いけなくはないけど……」  言い淀む順平を睨みつけ、言いたい事があるなら早く言えと無言で急かした。 「一昨日もその前も帰って来たじゃん……」 「…………」 「えっと。仕事は大丈夫なのかな、と思って……」  大丈夫じゃねえよ、バカヤロー。誰のせいだ。  60分の空き時間を作るのが、たかだか往復20分弱の移動をするのが、これほどしんどいとは思わなかった。小さな子供を持つ阿南とは違い、俺には無理をして帰らなければいけない義務や責任は無い。順平は一言だってそんな事を望んでいない。だからこれは俺のエゴだ。  順平が近いうちに旅立つと分かってから慌てるなんて、笑い話もいいところだ。  スニーカーを脱ぐため身体を屈めたら足がふらついた。順平が両肩を掴んで支えてくれる。 「大丈夫? 顔色が悪いよ」  ……ダメだな、俺は。何をやっても順平に心配ばかりかけてしまう。  近付いたついでに、額を順平の肩に押し当てた。 「瑠珂……」  順平が優しい手つきで後頭部を撫でてくれる。うっとり目を閉じかけた時、俺の腹の虫が悲しい音を立てた。いい雰囲気がぶち壊しだ。そして昨日の昼から何も食べていないことを思い出した。 「腹が減った……」  自覚した途端、身体に力が入らなくなる。  順平はクスクスと笑った。「親鳥の顔を見た途端、『メシを寄こせ』と騒ぎ出す雛鳥みたいだ」と。 「ご飯にしようか」  いつもと変わらない優しい笑顔。これがまた暫く見られなくなるかと思うと、胸が苦しくなった。
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