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どうしよう。身なりを改めて出直した方がいいだろうか。
本気で悩み始めた時、パンク風のベリーショートを灰色に染め直したらしいみかりんが、横から俺の顔をじっと見つめていることに気付いた。
「桔梗さん。この方、瑠珂さんじゃないですか?」
みかりんがすっごく目を細めている。そうしないと俺だと分からないのだろうか。
「えっ! 瑠珂!?」
「嘘!?」
桔梗が目を見開き、ほづみんが両手で口を押さえた。
二人とも信じられないって顔をしているので、今すぐ「人違いです」と断って逃げ出したかった。だが、そんな事をしても返って恥を増やすだけと思い直す。
「はい……」
返事をすると、桔梗とほづみんは同時に飛び退き、更に目を瞠った。逆にみかりんは態度を改め、ニコニコと満面の笑顔になる。
「いらっしゃいませ~。前回から二ヶ月も経っていて、今日はとっても素敵な眼鏡を掛けていらっしゃるのですぐには気付きませんでした。失礼いたしました」
冷やかし半分の言葉で出迎えられた。その後で桔梗には「そうならそうと早く名乗りなさいよ、おバカ!」と怒られた。
俺が悪いのか? 名乗るタイミングなんてあったっけ?
クロスを着せられ、シャンプー台、カット台に移動させられた後も、桔梗からは散々詰られ、ほづみんには頭を下げ続けられ、とっても居心地が悪かった。
店に入って15分、片づけを終えたみかりんとほづみんが「お先に失礼します」と帰っていく。店の中は桔梗と二人きりになった。
「前髪、本当にばっさりいっちゃっていいの?」
「ああ」
カットされた髪の束がぱらぱらと降り落ちる。頬や額を隠す髪が無くなり、視界が一気に広くなった。
「今までこんなに短くしたことあるの?」
「あるよ。散髪代が勿体ないから切るときはいつもばっさりいってたし」
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