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「どうして瑠珂がその子のことを知っているの?」
険しい顔つきで聞いてくる。
「まあ、色々あって。話しをする機会があったから」
「色々って何よ。まさか、順平の恋人として会ったんじゃないでしょうね」
桔梗は目の色を変え、尋問する刑事のような厳しい口調になった。
「違うよ。彼女は俺の事を順平の友人だと思ってる」
「じゃあ瑠珂も順平の友人としてあの子と会ったの?」
桔梗が『も』と言ったのは、自分と同じ境遇だと思ったのだろう。
「まあ、そんなとこかな」
桔梗は心底呆れたと言うような顔をした。
「アンタ、物好きね。順平を狙って諜報活動をするような女と会うなんて」
「はは……」
その台詞をそっくりそのまま返したい。
桔梗のさばさばした物言いに失笑する。
諜報活動どころか恋敵の誹謗中傷、順平のストーキングまで行っていたが、それらを話す必要は無い。
「物好きなのは桔梗も同じだろ。順平の同僚と名乗る女がいきなり現れて警戒しなかったのか?」
「しなかったわけじゃないけど、あの時はうまい具合にタイミングが重なって好奇心の方が勝ったのよ。順平がカミングアウトした直後だったから……」
つい彼女の申し出に乗ってしまった……。
当時を振り返り、申し訳なさそうに話す桔梗の言葉は正直だった。安心して聞いていられる。
「ごめんなさいね。あの時はまだ瑠珂と知り合っていなかったとはいえ軽率だったわ。後ですぐに反省して順平には全部話したのよ。聞いてない?」
聞いていない。首を振って答えると、桔梗は溜息を零した。
「あの子には『見込みのない恋なんてやめて、早くいい男を見つけなさい』って言ったのに、まだ諦めてないのね。女の執念は恐ろしいわ」
「そうだな……」
諦めざる負えない状況に追い込まれた執念はどこへ向かい、どこで昇華するのか。順平のやり方で藤白由香は本当にケジメをつけ、再起できるのだろうか。
今更どうにもならないと分かっていても気になってしまう。
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