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「しかし不思議ね。私が彼女と会ったのは2年前よ。その間、瑠珂の存在はバレなかったってこと? 順平のやつ、いったいどんなマジックを使ったのよ」
悔しげな言い方が可笑しかった。
「マジック?」
「そう。順平にね、『あの女は危険だから気を付けた方がいいわよ。大事な恋人にも伝えておきなさい』って忠告してやったの。だけど、アイツなんて言ったと思う? 動揺一つ見せずに『その必要は無い』ってばっさり。可愛くないの」
「……なるほどね」
偽装行為をマジックと言うなら、順平にとって俺の存在を隠すのはさほど難しい作業では無かったようだ。
乾いた笑みが込み上げた。
自虐的に笑う俺を見て、桔梗は鏡に渋顔を映す。
「私、言ってはいけない地雷でも踏んだかしら?」
いいや。気にしないでくれ。
首を振って否定したがダメだった。桔梗の表情は曇る一方だ。理由をきちんと話さないと納得してもらえそうにない。
「何となく分かっていたけど、俺は周りから順平の恋人だと疑われないくらいアイツのそばに居る時間が少ないんだな、と思って」
口から生まれてきたような桔梗から言葉を奪った。
店中が静寂に包まれる。
暫くして桔梗は普段通りの落ち着いた声を出した。
「考え過ぎじゃない? 二人とも多忙だし、順平なんてしょっちゅう海外へ行っているのだから一緒にいる時間が少なくなるのは当然よ。そんな状態でも二人は関係を続けてきた。大したものよ」
桔梗でもこんな表面的で根拠のない慰め方をするんだなと、辛辣な事を考えてしまった。
今は傷を抉られるよりも励まされる方が辛い。
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