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「そうかな。仕事に没頭していたらいつの間にか5年、10年、17年と経っていたような感じだけど」
身も蓋もない言い方をしたせいか、桔梗はがっくり項垂れた。
「瑠珂。それでも互いに相手を必要としなければ関係は続かないものよ。相手に興味が無くなったら空気ではなく悪臭になるの。つまり邪魔なもの。今すぐに捨て去りたいものよ。アナタ達は違うでしょ? 心から相手のことを愛してるって言えるでしょ? 時間の長さは重要じゃない」
熱の籠った説得だった。その通りだと納得できる。
けれど俺は返事ができなかった。
「瑠珂、何を考えているの?」
鏡では無く、桔梗は横を向いて直に俺の顔をまじまじと見つめる。
髪が短くなり頭が軽くなったのは有り難いが、顔を隠すものが無くて心許ない。
そんな悲しい目をしないでほしい。
何も考えていない訳じゃないが、こればかりは本番まで自分の感情がどちらに振れるのか判断がつかない。
「それよりさ、話しを戻してもいいかな?」
だてに何日も悩み続けてはいない俺は、取り繕う術に磨きをかけている。
桔梗はあっけらかんとしている俺を訝しみながら「何のこと?」と尋ね返す。
俺が今日ココで確認したいのは一つだけだ。
「藤白由香と会った時、順平の話しをしたんだろ? 藤白由香は順平の恋人や私生活を知りたい。桔梗は俺の事を知りたい。目的は一致していたわけだ」
「まあ、そうね……」
桔梗は戸惑いがちに頷いた。
「でも話している間に桔梗は藤白由香が順平にとって危険な女だと気付いた。どうして?」
「どうしてって、それは順平の話しをする時の彼女の熱量が異常と言うか、周りが見えないぐらい恋する自分に酔っちゃってる感じがしたと言うか……」
「彼女が盲目的に見当違いの所ばかりを探っていて、順平の本性に気付いていないと分かったからじゃないか?」
「え……?」
桔梗は困惑しながら考え込んだ。
暫くして「そうね。そうだったかも……」と呟く。
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