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桔梗は反省の態度を取りながら言い訳をした。
やたら懺悔の時間が長いから何事かと思えば、「これは順平にも話してないの……」と白状する。
「隠そうと思って隠していたわけじゃないだろ?」
「そうよ。うっかり言い忘れただけなんだけど、私からネタ提供するような発言をしたなんて今更怖くて言えないわよ!」
桔梗も順平を怖いと思うんだな。共感できる発見だった。
「藤白由香はどうだった?」
「どうって?」
「順平の相手が『男』じゃないかという仮説を出した時、彼女はどんな反応を見せた?」
「どんなって……」
桔梗はなんの疑いも持たず、その時のことを赤裸々に語った。
「急に怒り出すから話しにならないわよ。『男同士なんて汚らわしい』『順平さんにそんな趣味はありません』って全否定。あの子、マイノリティに対する理解が無いし、順平に理想を抱き過ぎだわ」
桔梗は呆れつつも同情する目をしていた。その表情だけ取っても、桔梗が情に厚いと分かる。
「瑠珂の時もそうだったの?」
藤白由香に同じようなカマをかけ、同じような反応を返されたのかと問われる。
「ああ……」
「そう。じゃあ、よほどの事が無い限りあの子は瑠珂の正体に気付かないわね。でも油断しちゃダメよ。順平をつけ狙う女は一人とは限らないんだから、これからはもっと用心しなくちゃ。私が言えた口じゃないけど、無茶をするのだけは止めてよね」
心配してくれる桔梗には悪いが、俺は少しだけ上の空だった。
どうして俺達は正体を隠して生きなければいけないのか。どうして周りに本当の事を知られてはいけないのか。
口酸っぱく順平に言い聞かせていた理由が、今は胸が詰まって声に出せない。
「そうだな。気を付けるよ」
物分かりのいい振りをして穏便に話しを終わらせた。
数時間後、桔梗は俺の言動に不可解さを抱き考え込むかもしれない。今夜のことを順平に伝えるかもしれない。
それでもいいと思った。だから口止めはしなかった。
桔梗の証言によって俺の憶測は確信に変わり、目的は達成された。実に有意義な時間だった。
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