Sequence 19

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 10月20日、東京の天気は朝からずっと曇りで、今秋一番の冷え込みとなった。  午後14時20分、搭乗口へ向かいフィリピン航空5323便、エアバスA321に乗り込む。  細い通路の両側に3列シートが並ぶエコノミークラス。週末前とあって機内はほぼ満席に近く、中程の指定席に辿り着くまで時間がかかった。  七瀬のキャリーケースを座席上の棚に収納していると、カメラマンの梶さんは俺達を押し退けて窓側の席を陣取り、早速シートを倒し始めた。  チケット上そこは俺の席だが、これだけ堂々と横取りされると文句を言う気も失せる。  七瀬が「梶さんのタバコ臭い横で5時間近くも耐えられない」と言うので、七瀬とも席を交代して俺が真ん中のシートに座ることになった。 「お前の荷物ってコレだけか?」  梶さんが俺のバックを見て目を細める。  ポーターの黒いトートバック。ナイロン製で軽く、柔軟性とクッション性を兼ね備えており書類や電子機器の持ち運びに便利だ。しかも丈夫だし、汚れても目立たない。 「バックの性能なんて聞いてねえよ。その角ばった形状の中には何が入っているんだ」 「今回の台本や資料ですけど」  離陸に向けたアナウンスが流れた。CAが最終確認の見回りを始めたので、トートバックを前の座席下に急いで押し込む。 「二泊分の着替えは?」  興味はないけど一応聞いてみると、七瀬の顔には書いてあった。
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