Sequence 19

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「ロッカールームの着替えのストックが減っていたから誰かが先に運んでいると思って俺は持ってきてない。無ければ向こうで調達すればいいし」  七瀬まで目を細めて俺を見る。  梶さんは「お前んとこの部下は本当に優秀だな」と褒めるので、「そうですね」と有り難く受け取った。  その部下達は、一足早く日付が変わる頃に影山や他のスタッフ達と共にプライベートジェットで旅立ち、今頃は現地で明日の準備に追われていることだろう。 「しかし、三人揃って後便で行くとは思わなかったな」  昨日の夜から今日の明け方までカメラを回していたという梶さんは、仮眠を取ったのか徹夜ハイなのか知らないがとてもテンションが高い。 「5時間もこの体勢だと腰が痛くなりそう。自腹を切ってもいいからビジネスクラスにして貰えばよかった」  七瀬も梶さんと同じ現場に入っていて、こちらは昨日から一睡もしていないのか目の下にクマを作って機嫌が悪い。先程から「シートの座り心地が悪い」「空調が寒い」と文句しか言わず、俺の腕にしがみ付いて暖を取っている。 「東京の最高気温は17度なのに、どうしてお前はノースリーブのワンピースにカーディガン一枚で来るんだ。そんなの寒いに決まってるだろ」 「だって、向こうは26度で蒸し暑いって聞いたから」 「到着するのは夜で、陽が落ちたら気温は下がるんだからな。他に着るものないのか?」  七瀬は震える声で「全部トランクの中……」と言う。  明日は撮影本番だというのに、今コイツに風邪を引かれては困る。
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