Sequence 19

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「慣れない薄着やスカートで腹を壊して知らないからな」 「梶さんには関係でしょ。余計なお世話です」  七瀬がプイッと顔を背け、梶さんは「可愛くねえな」と舌打ちした。  娘と父の親子喧嘩みたいだ。 「そういえば、七瀬が黒以外の服を着ているのを初めて見たな」  正確には白、ピンク、ブルー、イエローのストライプがランダムに入ったワンピースだ。こんなカラフルで女の子らしい服も持っていたんだなと実は驚いた。 「朝生、コイツのご機嫌取りなんてしなくていいぞ。海外ロケで柄にもなく色気づいてるんだ」 「へえ。七瀬でも海外ロケで浮かれたりするんだ」 「違うよ。コイツが浮かれてるのはなあ……」 「すみません、膝掛けを一枚貰ってもいいですか?」 「なんで俺の機内食より先に七瀬の膝掛けを頼むんだ! そいつは照明技師で俺はカメラマンだぞ」 「だから何ですか。アンタさっきから煩いですよ。少し静かにしてください」  年下に叱られたと難癖つけて不貞腐れる梶さんは、「最近の若い奴らは俺の偉大さを全然分かってない」とぷりぷりしながら機内食をウーロン茶で完食した後、すぐに俺の肩に頭を乗せてコテンと寝てしまった。七瀬も足の先まで毛布に包まり落ち着いた寝息を立てている。  資料を読む目が霞んで集中できない。肩は重いし、両方の腕を拘束されていて立ち上がるのもままならない。最悪の状況だ。  でも撮影に欠かせないカメラマンと照明技師は無事に現地入りを果たせそうなので一安心だ。  小さな窓の先に上空4万フィートの夕焼けの空が広がっていて、その美しさに目を奪われた。  順平もこの景色を見たんだろうか……。  仕事から意識が離れた途端、自動的に切り替わる脳が憎い。取り外して別の脳に付け替えられたなら、俺も梶さんみたく即効で眠れそうなのに。  睡眠の足りないボンヤリした頭で、空の色や形が刻々と変わっていく様を眺めていた。  
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