Sequence 19

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 定刻通り、現地時間18時40分にマクタン・セブ国際空港に到着した。  タラップに出ると外はすっかり夜で、蒸し暑いかと思ったら風がひんやりしていて涼しかった。七瀬が俺のシャツを返してくれない。  検疫と入国審査を済ませ、すぐに出口に向かって歩き出す。  梶さんと七瀬は俺よりせかせかしていて、観光客のように周りに目移りしない。厳つい警備員の前も、両替所の前も、涼しい顔をして通り過ぎる。  国内の小さい仕事しかしていない俺より異国の地に場馴れしていた。案内されているのがどっちか分からなくなる。  空港の外は出迎え、バスやタクシーの待ち合いで人がごった返していた。動線が確保されておらず、案内板を見てもさっぱり分からない。どこに向かうべきか迷っていたら、七瀬がスマホを耳に当て、先頭に立って歩き始めた。  ツアーの団体客らしい白人男性の大きな身体を追い越した先に、不安げな顔で耳にスマホを当て、辺りを見回す渚を発見した。 「お前はもう少し分かりやすい場所にいろよ」  合流してすぐ、俺の言いたい文句を梶さんが先に言ってしまう。  渚は高い位置にある肩を丸め「申し訳ございません……」と謝罪した。 「はじめは出口の前でスタンバイしていたんですけど、なんかプラカードを持った人が周りにどんどん増えて、あれよあれよの間にベストポジションを奪われしまい、誤って道路にはみ出したら近くにいた警備員さんにすっごく怒られて、こんな隅っこまで追い出されてしまいました……」  破棄のない声でボソボソと話した。  渚の様子が変だ。昨日の夜、成田に向かう前は怒鳴っても叱りつけてもハイテンションのままで手が付けられなかったのに、今は魂が抜けた廃人のように元気がない。体力と食い意地だけは底なしの奴なのに、何があったのだろう。  俺と七瀬は顔を見合わせて首を捻った。
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