Sequence 19

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 ホテルの送迎車は9人乗りのワンボックスカーだった。  運転手はホテルの若い男性スタッフで、ニコニコと陽気に笑い、日焼けした肌に白い歯が輝いていて爽やかだ。日本語は話すのも聞くのも出来ないようで、「ウェルカム」と簡単な挨拶を済ませた後は寡黙だった。  後部座席に俺と梶さん、中シートに渚と七瀬が並んで座ると車はすぐに走り出し、空港周辺のホテル街を抜け、長い橋を渡ってセブ島に上陸した。  中心部セブシティの摩天楼を横目に眺めながら車はセントラルノーティカルハイウェイに乗りひたすら北上を始めた。  都市型の大きな建物はすぐ見られなくなり、道路沿いには掘っ立て小屋のような小さな店や民家が並ぶ。街灯は無いし、建物自体に灯りが少ないので人が歩いていても近くを通過するまで気付かない。  田舎の国道沿いに似ているが、日本人は暗い夜道に集まらないし、地べたに座り込んだりしないので、やはり独特の情緒がある。  空港からホテルまでは車で約1時間半。しかし、渚達が到着して移動を始めた早朝は渋滞に巻き込まれて2時間40分かかったらしい。 「ホテルに着いて一息つく暇も無く荷物の運び入れ、機材チェック、宿泊部屋の割り振り、ロケ現場の確認を行い、さあリハーサルに取りかかりましょうとなった時に監督がいきなりビーチの掃除をするとか言い出し、『小枝一つ残すな。白い砂以外は全部取り除け』なんて無茶な指令を出しながらご自分はその近くでマルチコプターのテストを始め、更に枝や葉っぱを落として準備が全然進まないという悪循環……。そんなわけで休憩も食事も取れないまま今に至ります」  ハイテンションから廃人になるまでの過程を渚が抑揚なく語った。  影山の本領発揮、予想通りの暴君っぷりだ。12時間以上あの人と同じ場所にいたら癇癪で我を忘れるか、高血圧で倒れるかのどちらかだ。一陣に同行しなくて良かったと心から思う。
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