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「今回は同行しているスタッフが沢山いるだろ。手分けしてそいつ等にも手伝わせれば良かったじゃないか」
梶さんが言っているのは、エレメントの撮影メンバー以外、鷹東の撮影に参加して今回は休暇を取って遊びにきているスタッフ達のことだ。プライベートジェットには総勢40人が搭乗し、二日間の宿泊先は皆同じだと聞いている。
確かに人手には困らない。しかし、あの癖の強い奴らを若輩の渚達だけで動かすのは困難だ。こういう時こそ監督の威厳を見せてほしいものだが、渚の悲しげな表情を見る限り期待するだけ無駄だ。
「みなさん、明日の撮影が終わるまで何でも協力すると頼もしい言葉を下さったんですが、ホテルに着く頃には半数以上の方が体調不良を訴えまして……」
え……? なんだそれ。集団食中毒か? シャレになんねえぞ。
七瀬が「何かあったの?」と尋ねると、渚は素早く七瀬の肩を抱き寄せ、窓上のアシストグリップを掴んだ。その直後、車体が大きく傾き、シートから身体が浮いた。
突然の出来事に何が起きたのか分からなかった。
傾いた車体が水平に戻り、下からドシンと大きな衝撃を受けてまた腰が浮く。
言葉も出ないくらい驚いているのに、ワンボックスカーは何事もなかったかのように速度を緩めず走行を続けた。
「今のはなんだ!?」
窓に頭をぶつけたらしい梶さんが痛みを堪えながら叫んだ。
「この先、道路の所々に陥没や隆起があってかなり揺れるので何かに掴まっていた方がいいですよ」
「それを早く言え!」
同感。梶さんがいなかったら俺が怒鳴りつけているところだ。
「こんなのはまだ序の口です。もう少ししたらカーブが増えて上下左右に揺れます」
疲労がピークに達しているのか渚の表情筋は死んでおり、淡々と話すから怖い。
「運転手にスピードを落として丁寧に運転しろって言えよ!」
渚は首を横に振り「無理でした」とはっきり言う。
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