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今度はなんだ。持ち込んだ照明機器が壊れたか? また影山の思い付きでキャストが増えたか?
「……順平さん、今日は所用でダウンタウンにある教会へ行かれているそうで、こちらには明日の昼頃にいらっしゃるそうです」
……だから? それのどこが悲しい知らせなんだ。そもそもアイツは撮影に関係ないし、居なくても何の支障も無い。
ツッコミを入れて体力を消耗するのもバカバカしいので俺は聞こえない振りをした。一方、大人しく対ショック姿勢を取っていた七瀬は急に起き上がって「ガーン」と言っている。
「七ちゃん、ごめんね。事前に連絡ができれば良かったんだけど、そんな暇すら無くて」
渚も一緒になって嘆き始める。なんなんだ、こいつら。
シートに寝そべり身体を丸めて頭を守っていた梶さんが「ク、ク、ク……」と不気味な笑みを漏らした。
「残念だったな、七瀬。せっかくお洒落してきたのに憧れの王子様に見て貰えなくて」
挑発的な言い方をされた七瀬は悔しそうな表情になる。
憧れの王子とは順平のことか? コイツは順平に会いたかったのか? え、順平に会うためにお洒落をした……?
「ゴホッ! お、お前、そんな事のために東京から薄着で来たのか?」
久し振りに声を出したら喉が乾燥していて咳が出た。
驚きに噎せたと思われたのか、梶さんがゲラゲラと腹を抱えて笑い出す。
「どんな格好をしようと私の自由じゃないですか。とやかく言われる筋合いはありません」
七瀬はムスッと顰めっ面になる。
「体温調節できないような格好をするな。お前が寒い、寒い言うから俺はずっと半袖で我慢してるのに」
「朝生さんにはずっと梶さんがくっついていたから、それで丁度よかったんじゃないですか?」
好きでくっついてたわけじゃない。シートが狭くて逃げられなかったんだ。
七瀬の生意気な発言にイラッとした。コイツでも年相応の女子らしく南国リゾート地に心を弾ませたりするんだな、なんて微笑ましく思っていた俺が馬鹿だった。
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