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「見た目に騙されてる。アイツの腹の中は真っ黒でろくでもないぞ」
世の中には他にいい男がいっぱいいる。一人に限定しないで視野をもっと広く持てよ。七瀬や藤白由香だけでなく、順平に騙されている全員の女性に伝えたい。
七瀬が口をあんぐり開けて戦慄いた。
「実際に付き合っているから文句や惚気が言えるんですよ! ブラックなのはどっちですか、罰あたり!」
罰あたり? なんで?
「たしかに今のは嫌味にしか聞こえないな」
梶さんには鼻で笑われた。
嫌味? どの辺が?
「ムキになって牽制すること無いじゃないですか。七ちゃんは瑠珂さんから順平さんを奪おうなんて思ってないですよ」
渚には敵を見るような目で睨まれた。
牽制!? なんのために?
言いたい事がうまく伝わらなくて歯痒い。頭がぐるぐる回って適切な言葉が見つからない。それは全部、車体が揺れて脳みそがシャフルされているせいだ。
……失敗した。無関心な振りをして口を開かなければ良かった。なんでムキになってしまったんだろう。付き合ったきっかけなんて、好きになった理由なんて、今はもう幻のように遠い記憶であの時と同じ感覚にはなれないのに。
……だから思い出したかったのだろうか。
顔と声が嫌いだった。見た目の完璧さとは違い、中身は欠陥だらけだった。寂しがり屋で、一人が嫌いで、思い通りにいかないと口より先に手が出る奴だった。最低最悪だ。そんな男に惚れるな、お前達が思っているほどアイツは完璧じゃないーーー本当は大声で叫びたい。
でも、あの頃と今は違う。いつまでも同じではない。変わった所、変らない所、両方あって然るべきなのに、それをなかなか受け容れられない自分がいる。
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