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ハイウェイから脇道に入り、5分ほど進んだ所に目的のホテルはあった。
周りには何もない。真っ暗な平地の中に小さな明かりがポツンと入口の看板を照らしていた。
事前情報によれば、ここは海に面した南東向きの丘陵地で、受付棟とレストラン棟のほかに宿泊室となる42戸のヴィラ、南国の花や緑に溢れた美しい庭があり、地上の楽園だという。
受付棟の建物は古いが清掃が行き届いていて落ち着ける雰囲気だった。出迎えてくれたホテルのスタッフはみな上品で、高級ホテルのサービスを受けているような気分になる。
しかし建物の外に出ると足元を照らす最小限の明かりしかなく、周りの状況がよく分からないので生憎とまだ楽園に辿り着いた実感が湧かない。
「食事はどうしますか? 影山さんはレストラン棟にいると思いますけど……」
渚が遠慮がちに聞いてくる。移動だけで疲労困憊している俺達は「今日はもういい。明日にする……」と言って断った。
「梶さんの6号棟と、瑠珂さんの3号棟はここから少し歩くのでホテルの人に案内してもらって下さい。瑠珂さんの荷物は部屋の方に運んであります」
俺と梶さんだけ鍵を渡された。七瀬は渚と同じ部屋のようだ。
ホテルの女性スタッフを急かして梶さんが歩き出す。その後ろに続こうとしたら、渚に腕を掴まれて引き留められた。
「コーディネーターさんも今夜ここに泊っていますが、ご挨拶されますか?」
強張った顔を近付けてコソコソと耳打ちしてくる。
なんで小声? なんでお前が緊張しているんだ?
何やら俺は心配されているらしい。
不安を払拭するように突き出された渚の額を押し返した。
「今日は遅いから明日でいい」
「分かりました……」
腰を引いて後ずさる渚が微妙な顔をしているので気になってしまう。
「どうだった?」
「コーディネーターさんですか?」
「ああ」
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