Sequence 19

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 俺が興味を示した途端、渚は目を輝かせた。 「とっても素敵な方です。通訳は丁寧で分かりやすいし、この場所や近隣の島についても知識が豊富で、他のスタッフ達が隙あれば話しを聞きたいと列をなして待ち構えているほどです」 「そうか……」  力説する渚を見て安心した。けれど渚がまた暗い顔に戻るから、俺の表情は冴えなかったのだと思う。  幅の狭い小路を蛇行しながら緩やかに下る。  いくつものヴィラの横を通り過ぎたが、みな疲れて寝てしまっているのか、どの部屋も灯りが消えていて静かだった。  梶さんの部屋はレストラン棟に一番近く、階段を降りた先に大きな屋根とオレンジ色の暖かい光が見えた。  俺の部屋はそこから更に100メートルほどぐるぐる歩いた場所にあり、敷地の端に当たるのか小路が行き止まりになった。  最後に到着したから一番不便な部屋を割り当てられたかもしれない。まあ、いいけれど。  ヴィラのなかはツインのベッドルームのほかにダイニングルームとキッチン、浴室、独立したトイレが付いていて一人では十分すぎる広さだった。ベッドルームの大きな窓を開いた先には庭に続くテラスがあり、テーブルとガーデンチェアが用意されている。  ホテルの女性スタッフは片言の日本語で室内の説明を終えると早々に辞した。  ……静かすぎる。眠れるか不安になってきた。  なんて繊細なことを考えつつ、ベッドに手足を伸ばして横たわり目を閉じたらすぐに意識は薄れた。  打ち寄せる波や、草木の揺れる音が心地いい浮遊感を与えてくれる。  楽園のような景色は見えなくても、どうでもいいや、なるようになれと楽観的な気持ちにさせてくれる空気がここにはあるようだ。
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