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花と緑に彩られた白い小路を伝い、茅葺の大きな三角屋根が特徴的なレストラン棟に到着した。階段から続くウッドデッキには空を覆い尽くすヤシの木の影が落ちていて涼しい。落ち着いた色合いの建物はオープンカフェさながらに窓やドアのすべてが開口されていて風通しが良く、食事を求めて集まったスタッフ達で賑わっていた。
「おはようございます」
「おはよう」
すれ違い、目が合った一人一人と挨拶を交わし、空腹を刺激される香りに導かれて建物の中へ入った。
木組が剥き出しの高い天井。壁や床も木材で統一されていてログハウスに似た趣がある。
広いフロアの奥にオープン型の厨房があり、その手前のビュッフェテーブルに取皿を持ったスタッフ達が群がっていた。
3~4人用の丸テーブルが不規則に配置されたなか、中央には10人は優に座れる長方形の大テーブルがあり、そこを一人で占拠しテーブルに突っ伏して悪目立ちしているオッサンを見つけた。
「梶さん、昨晩は眠れなかったんですか?」
斜め向かいの椅子を引いてトートバックを置くと、梶さんは締りの無い顰めっ面を起こした。
顔が浮腫んでいる。いつものたばこ臭さに加えてアルコールの匂いがした。
「飲んだんですか?」
撮影を直前に控えて何をやっているんだ。呆れ返ると、梶さんは気怠げに頬杖を付き「朝生はぐっすり眠れたか?」と枯れた声で問う。
「ええ。とっても快適に」
「くっそ。俺もお前のとこに行って休めば良かった」
得意のおふざけではなく本気で言っているようだった。
この人にいったい何があったんだ。
「日付が変わるぐらいに若い奴らがぞろぞろと起きて来て、そこのウッドデッキで宴会を始めやがった。『うるせえ。静かにしろ』って文句を言いに行ったらアイツら俺を良い様に唆して酒を振る舞い、気付いたら皆で朝日を拝んでいた……」
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