Sequence 19

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 道楽に流されやすい己の甘さを後悔しているのか、梶さんは同情を誘うようなさめざめとした声で語る。 「自己管理ぐらいしてくださいよ。昔のように徹夜明けや飲み明けでそのまま仕事できるほど若くはないんですから」 「まったくな。体力の衰えを身に沁みて実感したよ。若い連中と張り合っても強烈なしっぺ返しを食らうだけだ……」  素直に認めた。珍しいことがあるものだ。  その人が妬ましげな視線を向ける先には、溌剌とした表情でレストランに入ってくる20代の男性スタッフ達がいた。  アイツらか……。  大皿に盛られた料理やフルーツ等を前にして無駄にテンションの高い集団に近付いた。  俺に気付いたカメラアシスタントの佐潟が「朝生さん、おはようございます」と爽やかな笑顔を向けてくる。俺は「おはよ」と返した後、佐潟の側頭部を指で小突いた。 「夜中に酒盛りしてたって? 飲むのはいいけど休んでいる人がいることも考えろ」 「監督がレストラン棟では好きに飲み食いしていいって言ったんですよ。梶さんを起こしてしまったのは申し訳ないと思いますけど、俺達は無理に引き留めてないですよ。なあ?」  佐潟は口を尖らせ、背後に立つ美術アシスタントの鯨津に同意を求める。 「ええ。梶さんは自分から進んで酒瓶を空けていましたし、『もっと飲め』って周りを煽っていたのはあの人ですよ」  鯨津はさも迷惑そうに切れ長の目を細めた。  若者の前で頑張り過ぎて逆に呆れられるとは、先輩としていかがなものなのか。 「それでもだ。あの人が楽しい雰囲気に呑まれやすいのは知っているだろ。今日使い物にならなかったらどうする」  少しは先のことを考えろ、他者を気遣う配慮をしてくれ。切実な思いで注意したのに、コイツらときたら「梶さんなら大丈夫でしょ」と軽く受け流す。
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