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機材の撤収と片づけが終わったレストランではそのまま打ち上げが始まりそうだった。梶さんは冷えたビールを煽り、佐潟や鯨津は服を着たまま海に飛び込んでいる。
賑やかな空間からそっと抜け出して階段を上り始めた時、目ざとい渚に「瑠珂さん」と呼び止められた。
「何処に行くんですか?」
デッキから心配そうに見上げてくる。その横には三浦もいて、遅れてこちらを見た。
「汗と砂で気持ち悪いからシャワーを浴びてくる」
同じ考えで部屋に戻るスタッフは多い。七瀬と万知はいつの間にか身なりを整え、リゾート感たっぷりの花柄のワンピースに着替えていた。万知のヤツは本当に波の音を取る気でいるんだろうか……。
「打ち上げは18時からですよ。忘れないでくださいね」
声を張り上げる渚に、分かった、分かったと手を振って応える。欲を言えば、影山や沖田みたいに気付かない振りをしてほしかった。
モニターチェックを行い、影山の「オーケー」の言葉を聞いた瞬間、集中力がプツンと切れた。
疲労感と脱力感で何も考えたくない。周りのがやがやした音、賑やかな声、人の気配、それら全てが不快になり堪えられなくなった。
白い石が敷き詰められた小路をゆっくり歩く。西の空に傾いた太陽は徐々に赤みが増し、降り注ぐ光が痛いほど熱い。
日暮れまでのカウントダウンが始まった。刻々と変化する美しい空を時間の許される限り眺めていたいと思う。それでも足は一歩ずつ確実に部屋へ近付いていて、打ち上げや貴重な景色を二の次にするほど気持ちが急いているのだと自覚した。
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