Sequence 20

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 今が良くても先はどうなるか分からない。未来が分からないのは皆同じと分かっていても、この不安は俺の中で一生消えない。だって、今以上の幸せがあるとは思えない。  時間が俺達を追い立て、否応なく物事や状況を変えていく。  時の流れには逆らえない。ならば華麗に乗りこなすしかない。  傷つかないための保身ではなく、後悔や言い訳だらけの人生にならないように、俺はケジメの二歩目に踏み出す。 「順平……」  ガラガラの声で呼ぶと、順平は「ん?」と甘えた声で返事をした。 「今度お前が帰国した時、次はお前の親父さんに会いに行こうか」 「え……」  順平の顔からご機嫌な笑みが消えた。 「今でも連絡は取っているんだろ?」 「う、うん。そうだけど……急にどうしたの? 本気?」 「うん。嫌か?」 「ううん。全然嫌じゃない。むしろ……」  順平は困惑して口元を手で押さえた。  むしろ……何?  なんとなく想像はできるが、ここまで聞いたら最後まで言わせたい。  順平が探るような目で俺を見る。どういう風の吹き回しだろう。手放しに喜んでいいのかな。信じてもいいのかな……。  数時間前まで破局寸前の口論をしていたから、疑われても仕方ない。  たぶん俺達はこの先も、楽しさや喜びを共有し、不満や怒りをぶつけ合い、傷つき、苦悩にまみれ、それでも共に生きる道を求めて探す。その覚悟を確かなものにしなければならない。  順平の耳に唇を寄せ、風よりも波よりも小さい声でゆっくりと囁いた。  余所見はさせない。誰にも渡さない。お前は俺だけを追い掛けて、俺だけを欲しがればいい。順平を縛り付ける呪文がどんどん溢れてくる。  ―――狂おしいほど、憎たらしいほど、愛している。俺はもう、お前以外は愛さない。 了
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