Sequence 3

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 この冬、ターミナル駅直結の大型商業施設に屋内型ナイトプールが誕生する。毎夜クラブのようなライティングとイルミネーション、プロジェクションマッピングや生バンドの演奏等も楽しめるエンターテイメント施設。その先行プロモーション用のCM撮影現場でハプニングが発生した。  キャンペンガールであるモデルの木埜下(きのした)マリンのほか、最近売り出し中の男性アイドルユニット『バーテックス』の二人を起用することが決まっていたが、撮影当日になってバーテックスの二人が現場に現れず、所属事務所とも連絡が取れない。業界のツテを活用して情報網を張り巡らせた結果、どうやらバーテックスのうちの一人が一か月前に傷害事件を起こしていたことが発覚したらしい。  ふざけんなっ!  世田谷某所の貸しスタジオに到着した時には15時を過ぎていた。 「阿南!」 「瑠珂さーん」  阿南って呼んでいるのに真っ先に駆け寄ってきたのは渚だった。 「嗚呼、瑠珂さん。今日はいつもに増して素敵です、麗しいです、眩しいです! 休日の瑠珂さんにお会いできるなんて渚、感激です。わぷっ……」  渚の顔面を鷲掴みにして視界の外に退かす。遅れて現れた阿南が現状の説明を始めた。 「舞台セット、スタッフ共に準備万端ですが、キャストが揃いません。代替えキャストの『コメット』についてはクライアントから承諾を得ています。今は名古屋からこちらに向かっていて約1時間後に到着予定です。問題はメインキャストのマリンちゃんで、撮影の中断とサブキャストの変更に不満があるのか控室から出てきてくれません。クライアントと広告代理店の担当者が説得にあたっていますが、二人ともかれこれ40分は控室に入ったままで状況がさっぱり分からず」 「『コメット』って?」 「25歳コンビの若手芸人です。ネタではまだブレイクしていませんが、ルックスが良く、脱いでも恥ずかしくない身体つきをしているとか」 「誰の情報だ?」 「磯崎さんです。オファーも磯崎さんがしてくれました」
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