鏡が見える。

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 初めて来た公園のバスケットコートだったが、楡太はスリーポイントを決めて最高の気分だった。天気も上々だし、気持ちの良い風が足の間を擦りぬける。楡太は第二クォーターを終えてアスファルトの上に座り、バスケットボールを抱き抱えた。メンバーが「このまま作戦続行な」と言ってるのを聞きながら、優妃の姿を目で探していると、ライコが傍に来た。 「優妃、今トイレ行ってるよ」 「あ、そう」  何故かその場に一緒に座り込むライコをチラと見て、楡太は視線をコートに移した。ライコが話しかけてくるかと思ったが、いつまでたっても口を開かない。けれど楡太は、不思議と気詰まりを感じなかった。 「あのさ」  先に言葉を発したのは楡太だった。 「なに?」 「優妃がさ、どうも浮気してるっぽいんだけどさ」  何故ライコにこんな告白をしたのか、自分でも驚いた。男友達にも話してなかったことだ。 「へえ。なんか見たの?」  気の無いようなトーンで言葉が返ってきた。 「ん、見たっていうか」  学校で隣の教室の前を通ったとき、駅前で同じ制服の男子を見つけたとき、優妃の瞳は誰かを探すように動く。 「それって複数いるってこと?でも江古田の前でわざわざそういうことするかな」 「いや、アイツはやると思う」  分かってて付き合い始めたことだが、優妃は自分がいかに男からモテるかを顕示する女だ。 「ふーん」  ライコは公園の向かいにあるゴルフ練習場のトイレから出てきた優妃を、目を細めて眺めた。その眉間にシワが刻まれる。 「なるほど」  そう言って「優妃の胸見て」と顎をしゃくった。何を言い出すのだろうと思いつつ、優妃を見ると、そこにあるのはスポーツブランドのロゴに包まれた豊かな形の良い二つの隆起だ。楡太があらぬことを考えていると、 「ふわんふわんと出てきてるよ、何本も揺れてる。一、二、三……九本、かな」 「なに?何の話?」 「ダメだ」  ライコは口をつぐんだ。その瞬間、こちらに歩いてくる優妃の顔の下半分が尖ったような気がした。楡太がハッと思うと同時に優妃は可愛らしく笑い、「調子良さそうだね」と楡太に話しかけてきた。ライコは何事も無かったように「第三クォーター始まるよ」と言ってその場を離れていった。
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