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あれは、うだるような暑さの中、大学生特有の倦怠感というか、虚脱感というのか、そんな気だるさに包まれた、ある夏の夜のこと……。
特に何かすることもなく、暇を持て余して死にそうだった僕ら四人は、東京都郊外の某所にある有名な心霊スポットを訪れていた。
誰が名づけたのか? 都市伝説における呼び名は〝惨劇荘〟。
もとはとある資産家が建てた別荘であったが、50年程前に強盗が押し入り、家族全員を惨殺。その後は住む者もおらず、ずっと廃屋となっている建物だ。
そして、いつの頃からか殺された家族の霊が出るというウワサになり、今ではその筋で知らぬ者もおらぬ、超有名な都市伝説に華麗なる転身を果たしたというわけだ。
「こいつは想像以上の迫力だな……」
鬱蒼とした木々が空を覆い、月明かりも届かぬ真っ暗な山中の闇の中、なぜかそれだけが白くぼんやりと浮かび上がる廃屋を見上げ、ここまでオンボロ車で連れて来てくれたナオトが呟く。
「さすが、有名なだけあって雰囲気ありすぎ……」
「ねえ、マジで怖くない?」
その背後に隠れるようにして立つユウカとナミも、それぞれに率直な感想を口にする。
今夜の肝試しの参加者は、このナオト、ナミ、ユウカに、僕ことタカシを加えた男女四人。同じ大学の同じゼミで、いつもつるんでいる仲良しグループである。
「こいつが、あの惨劇荘か……」
ただただ恐怖を感じているらしいそんな友人三人に対し、一方の僕は都市伝説に聞く超有名な心霊スポットを目の前にして、背中に冷たい水を浴びせられたような恐怖感とともに、絶景や世界遺産を見た時に感じるようなある種の感動を密かに抱きながら、どこか感慨深げな声を無意識に漏らしていた。
それは〝廃墟〟という言葉があまりにも似合いすぎるくらい、見事に朽ち果てた廃屋だった。
軽井沢とかの外国人の別荘にありそうな木造コロニアルスタイルの外壁に塗られた白いペンキは無惨にも剥げ落ち、いくつかあるガラス窓もすべて割れてしまっている。
屋根には所々青く苔生した箇所もあり、建物全体も微妙に傾いているような、そんな気がする。
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