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「さ、入るぞ……」
僕がそうしてまじまじとその荒廃ぶりを観察していると、前方にぽっかりと真っ黒な口を開ける、ドアが壊れて半分取れかかっている玄関…いや、そう呼ぶのも疑わしい入口を見つめながら、ナオトが意を決したように号令をかける。
「ゴクン……」
僕も大きく喉を鳴らし、ナオトとその背中にへばりついたユウカの後を追って、魔界の中へ突入する。
さらにその背後からナミも身を寄せるようにして着いてくる。
ギィ…。
玄関前の短いコンクリの階段を登り、木造のテラスとなっている床板を踏むと、腐りかけた木の軋む音が聞こえた。
ギィ…。
足を下ろす度に、なんだか少し沈むような気もする。床が抜けないかどうかも心配だ。
だが、そんな心配も、玄関から邸内へと入ったことで一気に吹っ飛んだ……床が抜けることなどすっかり忘れてしまうような、過度の恐怖と緊張感に……。
中は外の冷たい夜気とはまた違った、重苦しい、密度の濃い空気で満たされていた。
入った瞬間、異様な質感で満たされているこの空間が、何かとてつもなくヤバイものであることを体が総毛立って教えてくれる。
……ギィ…。
それでも、ここまで来てしまってはもう引き返すわけにもいかない。
全身にまとわりつくような、その薄気味悪く淀んだ空気の中を、僕らはさらに奥へと進んで行った。
歩を進め、周囲の空気を揺り動かす度に、仄かに黴(かび)臭い匂いが鼻をかすめる。
懐中電灯の明かりが足元を照らすと、木の床の上には埃だか、土だかわからないようなものが堆積し、空缶だの、紙屑だの、落ち葉だのといったものが散乱している。
堆積物の上には無数の足跡がぐしゃぐしゃにつけられているが、皆、僕らと同じ肝試しに来た不届きな輩のものであろう。
僕とナオトの手に握られているに二つの懐中電灯の光が、床や壁、天井を照らしながら、奥へ奥へと突き当たる所まで進んでゆく。
そうして見た様子では、玄関を入ってすぐの所は細長い廊下になっているようで、その左右に壊れて用をなさなくなったドアが四つ、開けっ放しや状態のまま並んでおり、その向こう側に部屋のあることがわかる。
また、廊下の突き当たり奥には階段があって、そこから二階へ上がれるらしい。
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