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「スゲー荒れようだな……」
ナオトが、言った。
床はさっき言ったような有様だし、天井に張られていた白いべニア材も獰猛な獣の爪で引き裂かれたかのように、所々だらりと薄気味悪く垂れ下がっている。
さらに壁には赤や黒のスプレーで「〇〇参上!」だとか、「バカ」だとか、くだらない落書きが所狭しと大きく書かれ、よくこうした心霊スポットへ行く番組で映る廃屋の映像そのままである。
ウワサの通りならば、ここの持ち主が殺され、誰も使わなくなってから50年も経っていることになる……ならば、この荒れ具合というのも当然であろう。
「ねえ、もう帰ろうよ……」
まだ入ってわずかしか経ってないのだが、ナミがそんなことを言い出した。
「何言ってんだよ。これからがいいとこじゃんか。さ、部屋を廻ってみようぜ」
しかし、ナオトはその言葉に耳は貸さず、そう答えるや、すぐさま左手前にある一番近い部屋の方へと歩いて行ってしまう。
「あ、ちょっと待ってよ!」
それには仕方なくナミもその後を追い、さらにその背後から僕とユウカもついて行く。
まず最初に入った部屋は、ダイニングとリビングを兼ねたような部屋だった。
入って左手はダイニングの空間らしく、食事用のテーブルと椅子が置いてある。
ただし、4つある椅子はすべて倒れ、半壊したようなものもあれば、そうでなくとも黴だか泥だかに汚れた姿で無残に転がっている状態だ。
一方、右手側はリビングらしく、穴が空き、中の詰め物が外へ飛び出してしまっている革のソファーがコの字型に並び、それに囲まれるように、やはり落ち葉や土埃が堆積した大きなテーブル、その前の台の上には、ブラウン管の割られた古めかしい型のテレビが置いたままになっている。
また、ふと足元の絨毯に目を移して見れば、その上にはどす黒い大きな染みが一ヶ所、いやがおうにも目につく有様でついている。
……もしかして……これは、あの一家惨殺事件の……。
……いや、まさかな……事件のあったのは50年も前の話だ。こんなにはっきりと血痕は残っていないだろう……。
それに、その事件そのものが本当にあったかっどうかもわからない。
すべては、あくまでウワサにすぎないのだ……。
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