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と、その時。
ガサ…。
突然、何か紙でも擦れるような物音がした。
「キャッ!」
その音に、女子達が短い悲鳴を上げる。
一方の僕とナオトの男子二人組も恥ずかしながらビクリっと体を震わせ、そのままの格好で硬直してしまった。
物音は、食事用のテーブルと椅子のさらに向こう側――そこから部屋続きになっているキッチンの方で聞こえたような気がする。
他の三人も同様に思ったらしく、一同はキッチンの方を無言で凝視した……。
僕とナオトは反射的に懐中電灯をそちらへ向けたので、薄汚れ、もう何十年と使われていないキッチンの周辺は黄白色の光の中に浮かんで見える。
レトロ感の漂うガスコンロがあり、そのとなりにはステンレスの流しがあって、上方に設けられた棚には、鍋やらなんやらが、リビングの家具と同じように置き去りにされたままになっている。
……しかし、しばらく見つめていても、何かが動くようなこともなければ、再び音がするようなこともない。
「…………今の音、何?」
ユウカが、沈黙を破って尋ねた。
「そ、空耳じゃないか……?」
ナオトが答える。
「で、でも、みんな聞こえたよ?」
ナミがそう反論したが、確かにその通りである。全員聞いているのだから空耳ということはあるまい。
「じゃ、じゃあ、きっとネズミか何かがいたんだよ」
空耳論を否定されたナオトは、次に小動物論を主張した。
「それなら、ありえるかもしれないけど……」
と、僕もその説に一応賛同したのだったが。
「あ!もしかして、これじゃない?」
と、ユウカがいきなり、明るい調子の声を上げた。
彼女の方に顔を向けると、彼女は人差し指を真っ直ぐに伸ばし、キッチン近くの壁面を指差している。
その指の示す方向――そこには、薄汚れた壁に貼られた何枚かの紙があった。
貼ってあるといっても、全体がぴったりと壁面に貼りついているわけではなく、下の方は剥げかけていて、湿気にぺろんと丸まっていたりする。
遠くてよく見えないが、紙の表面には何か文章が書かれている。
生前の住人が貼ったものか、何かのメモ書きのようだ。
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