廃屋の伝言板

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 だが、僕はそれに答えず、続けて他の〝小さな文字で書かれた〟落書きも読みにかかる。  それは、ナオトやユウカも同様である。  〝ヨシキ、何があったのか知らないけど、早く帰ってきてくれよ。あれからずっと、みんなでお前のことを探してるんだぜ?とにかく、誰にでもいいから連絡をくれ。 お前を必要とするバンド仲間達より〟  〝ユリへ。こんなことになってしまってごめんなさい。全部、こんな軽はずみな計画を立てた私達の責任です。謝ります。何でもします。だからお願い。早く帰ってきてください。 ●●大女子バスケ部三年一同〟  〝親愛なるユウトへ。これを見てくれるかどうかわからないけど、わずかな希望を込めて書きます。いつかきっと戻ってきてくれるものと信じ、みんなずっと、あなたの帰りを待っています。 あなたを愛する者達より〟  読み進めるにつれ、僕の背中には冷たい戦慄が走った。  となりに意識を向けると、ナオトとユウカの二人も、息を止めて唖然としているのが空気でわかる。  なんなんだ? これは?  それは、明らかに落書きとは異質なものだ!  「なんだか、伝言板みたいだよね……」  壁面を見つめたまま、僕らが呆然と立ち尽くしているとナミが言った。  伝言板……その名称が、まさに当てはまるような文章の内容である。  でも、いったいなんのために? これではまるで、行方不明の人間に対して書かれているような……。 「ちょ、ちょっと! この紙の方もだよ……」  そこへ追い打ちをかけるように、ユウカがまたも驚きの声を上げる。  見ると、ユウカの目は壁に貼ってある紙切れの一つに注がれているようだ。  僕とナオトとナミの三人も、ユウカの見つめる方向へと視線を向け、その文面を無言で読む。  〝ハセガワ コウジ君へ これを見たら、すぐに連絡をください。急いでそこへ迎えに行きます。君が帰ってきてくれることを心から祈っています。 一緒にここへきた友人一同より〟  ……これも、やはり同じような内容だ。 「こっちも、こっちも、こっちも……みんな同じ。なんなの? いったい?」  理解不能なものへの戸惑いと恐怖を含んだ声で、ユウカが譫言のように呟く。
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