瓦礫に咲いた花

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「その、どの子の顔を見ても同じように見えるんです」  最初は新人ゆえの緊張からくる錯覚かと思った。けれど、徐々に慣れてきてもその違和感は消えなかった。むしろ増大している。時折誰が誰かもわからずに、まるでみんな同じ仮面をかぶったように区別がつかなくなることもある。 「教科書を読んでる時も、体育の授業の時も、みんな無表情に見えてならないんです。言葉を読み間違えても誰も笑わないし、ボールで遊んでいるときも淡々としているというか」  授業を中断するほどの障害ではなかったし、ノイローゼにかかるほどの悩みでもなかった。ただ、教師としての能力を自分で疑ってしまうことが時折あった。 「仕方ありませんね。こんな時代ですから」  こんな時代、それはマスコミでもよく使われる言葉だ。曖昧なその表現は何度も耳にしている。 「まあ、慣れですよ、慣れ」 「そうでしょうか」 「それに、先生はこの土地ははじめてなのでしょう。そのせいもあるかもしれませんね」  確かにこの町は全国の中でも特殊な位置を占めている。あの「過去」が子供たちに何かしらの影響を与えているとしてもおかしくはない。よその町で育った僕にはまだ理解できない何かが。     
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