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そんなセンチメンタルジャーニーな私の背後に、突然黒い影が落ちた。
「いよっ! なーにしてんのっ?」
爽やかな明るい声に私は驚いたわ。だって、岸壁からかなり遠くの消波ブロックまで来てるのに、後ろの人物は私に声をかける為に、わざわざここまで来たって事。
そして振り向いた私は更に驚いたわ。
太い眉に糸のような目。美しいおしりのような弧を描く、割れ顎。出っ歯。
見事な出オチ顔……!
ハイウエストのケミカルウォッシュのデニムパンツに、真っ白なTシャツ(袖は肩まで捲り上げ、裾は迷うことなくイン)。
靴下は白のハイソックスを縁からクルクルと足首付近まで丸められて、まるでドーナツのよう。
無造作な天然パーマは、ショッキングピンクのバンダナをハチマキがわりにして、膨らむのを抑えているみたい。
揺るがない個性。熱いパッションを感じるファッションだわ。
ボロボロのデッキシューズには、油性ペンで大きく「3年2組 田中」と書かれている。
田中君なのね。
彼は私の斜め前の消波ブロックに飛び移り、フジツボを毟って海面に投げた。
「こんな所にいると危ないぞ。君、どこ中?」
「ニ中……だけど、中学生なんてだいぶ昔の事よ?」
私を笑わせるつもりのギャグにしたって、何も面白くない。私がニ中だと答えたのに、田中君はフジツボを毟ることに夢中になりすぎて聞いていない。しまいにはテトラポットの間から出てきたカニに指を挟まれて、悶絶している。
男の人って、みんな自分勝手ね。
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