失恋から始まる出会い

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 蟹の攻撃で涙をボロボロ流す田中くんは、真っ赤な目をして私に言った。 「なあ、君の涙の理由(わけ)を教えてくれないかい?」 「それよりも田中くんの涙の理由(わけ)を早く取り去りなさいよ」 「えっ? なぜ俺の名を、田中だと?」 「あなたの靴に名前が書いてある」  当たり前の疑問に当たり前の返答をすると、田中くんは「ノン、ノン」と蟹付きの人差し指を突き立て、左右に揺らした。 「これは氏名を書く時に間違えてしまったのさ。俺の名は、“とくだ”さ」 「徳田……君?」 「そう。とくだ。“高田とくだ”って言うんだ」 「くどい名前ね」  田中くんのどうでもいい本名は置いておいて、私は海を見る。水平線の果ては、もうすぐ上がる朝日の影響を受けて夜の青さを失いつつある。たくさんの色が混じり合い、白い太陽が顔を出し始めた。  くすん……また幸蔵を思い出しちゃった。  あんな太陽みたいな、福禄寿みたいなイケメン、他にはいないヨォ……。
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