5人が本棚に入れています
本棚に追加
蟹の攻撃で涙をボロボロ流す田中くんは、真っ赤な目をして私に言った。
「なあ、君の涙の理由を教えてくれないかい?」
「それよりも田中くんの涙の理由を早く取り去りなさいよ」
「えっ? なぜ俺の名を、田中だと?」
「あなたの靴に名前が書いてある」
当たり前の疑問に当たり前の返答をすると、田中くんは「ノン、ノン」と蟹付きの人差し指を突き立て、左右に揺らした。
「これは氏名を書く時に間違えてしまったのさ。俺の名は、“とくだ”さ」
「徳田……君?」
「そう。とくだ。“高田とくだ”って言うんだ」
「くどい名前ね」
田中くんのどうでもいい本名は置いておいて、私は海を見る。水平線の果ては、もうすぐ上がる朝日の影響を受けて夜の青さを失いつつある。たくさんの色が混じり合い、白い太陽が顔を出し始めた。
くすん……また幸蔵を思い出しちゃった。
あんな太陽みたいな、福禄寿みたいなイケメン、他にはいないヨォ……。
最初のコメントを投稿しよう!