5人が本棚に入れています
本棚に追加
徐々に上がる太陽に幸蔵が重なって見える。何故かしら。気付いたら私は泣きながら手を合わせて拝んでいたわ。
とくだ君は、私の気が済むまで泣かせてくれた。隣で水戸黄門のテーマソングを口笛で吹きながら。よほど上手に吹けたのか、盛り上がりすぎて後半はハミングに変わっていた。
けれど調子に乗って転調したのがダメだったわ。自分の音域の限界を無視して、とくだ君は呼吸困難になっていた。
そんな彼を、私は……声を押し殺して笑った。
「肩が震えてるぞ。寒いのか? 仕方ねえな……ほら。これ、貸してやるよ」
「寒くないわ。もし寒いとしても、脱ぎたての靴下なんて絶対履かない」
「気が強い女だな」
「気が弱くても絶対履かない」
脱いだばかりの靴下を肩にかけ、彼はそこら辺に落ちていた草を口に咥えて、朝日を見つめた。
「ほら、太陽がやっと顔を出した。昨日は真っ赤な顔をして沈んだアン畜生も、1日たてば生まれたての白い顔で出てくるんだ。あんたも何で悩んでるのか知らねえが……元気だせよ」
生まれたての太陽、か。太陽なんて、毎日変わらないで同じものだわ。だけど、とくだ君の表現は嫌いじゃない。
潮風が頬に残る涙を乾かしてくれる。キラキラひかる海まで、私に“元気だして”って言ってくれている気がした。
「とくだ君、ありがとね。あとその草、ペッてした方がいいわ。唇が腫れ始めてる」
最初のコメントを投稿しよう!