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海と空の切れ間から、どんどん近づくイカ釣り漁船。大漁旗には見事な達筆で、“幸丸”と船の名前が記されていた。しあわせまるかな? こうがんかな? どちらだろう。
「ここで君と出会ったのも何かの縁さ。とりあえず家族に君の事を紹介するよ」
とくだ君が、イカ釣り漁船に大きく手を振った。まさか、とくだ君の御家族様なの?
彼をこのセンスのまま放置した御家族の顔を一目見たくて、私はイカ釣り漁船に目を凝らした。
「おーい! 爺ちゃーん! 俺の彼女になるかもしれないレディ発見! 女神様みたいな子だぜ!」
女神様……その言い回し……。私は嫌な予感がした。大漁旗の“幸丸”の名前。
「お、お爺様のお名前は……?」
「ん? 爺ちゃんは高田幸蔵っていうんだ。イカした男だぜ! イカ釣り漁船だけになっ!」
ザッパーンと、大波が消波ブロックに到達した。
脱力した私は見事に海に落ちたわ。
クソくだらねえとくだ君が幸蔵の孫だと分かったら、未練も消えた。
私は泳いだ。完璧なフォームのバタフライで、大海原を泳いだ。
さよなら幸蔵。私は行くね。いつか会う日があるならば、その時は幸蔵の自慢の元カノとして、立派なトライアスロン選手になってるから……。
お
わ
り
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