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つい一週間前のこと、
「では、失礼します」
先生から押しつけられた雑用を終え、鞄を取りに教室へ戻る途中だった。
「ふー……あ、もうこんな時間か、さっさと帰らなくちゃ」
少しだけ急ごうと、駆け足で美術室を横切ろうとする。
ふと、隙間の空いたドア越しに、室内の様子が目にとまった。
「あ……」
思わず息を呑む。
夕日の差した窓際に、見知らぬ女生徒がひとり佇んでいた。
それはごく当たり前で、ありきたりな情景だったかもしれない。
でもボクは、胸の奧に突き刺さるような痛みを覚えた。
長い黒髪がたおやかに揺れ、白磁のような首筋が時折顔を覗かせる。
広げた両腕は指先までまっすぐに伸び、乱れのない足下はきちんと整えられていた。
紺色のセーラー服に包まれたシルエットは、周囲に滲む赤と見事なコントラストを描き出している。
その後ろ姿に、ボクの鼓動は自然と高鳴った。
宗教画のような神々しさすら感じた。
どれだけ眺めていたのかわからない。
自分がなぜ、この場にいるのか思い出せなくなった頃、音もなく先輩が振り返った。
「え、あっ」
とつぜんのことでリアクションも取れない。
だけど、
「世界はこんなにも美しい。君もそう想うでしょ?」
はにかんだ笑顔がとても、とても印象的だった。
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