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「お母さん、撮ってないでさっさと食べたら? 冷めちゃうよ」
「食べてるわよ」
よく見ると、カメラを片手で持ったまま、空いたほうの手で焼き魚をほぐして口に運んでいた。相変わらず器用なことをする。
「あと、さっき撮ったやつは消してよね」
「イヤよ。娘の普段の素行を表している写真なんだから」
「もう」
こんな母と娘の会話をとなりで聞きながら、父は困ったような表情を浮かべる。それはそうだろう。ダイニングルームでカメラをかまえながら食事をする妻なんてそうそういない。
父はしばらく黙っていたが、やがて重々しく口を開いた。
「……楽しいか?」
「ええ。だって娘の記録ですもの。そうだわ。あなたも一緒に撮りましょうよ」
母はわたしに目配せし、笑顔でカメラをかまえる。やれやれ。仕方なくわたしは父の斜めうしろに移動する。
なのに、父は青ざめた顔で母になにか言いたげに口をぱくぱくさせたあと、逃げるように寝室へと向かった。
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