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窓際の席からサミは校庭を眺めた。二ヶ月ぶりの雨は、干涸びていた校庭一面に、みずみずしい笑みが広がっているように見えた。校庭は潤いを保つ過程にあるのだろうが、サミの内奥には疑惑という名の黒渦が蠢いている。
ほら。
レインコートを羽織って校庭を歩く者がいる。同じクラスのシュンイチ。彼のあだ名は〝影〟だ。根暗で声が小さく、黒縁眼鏡を掛けているのだがフレームの塗装が禿げていて、ダサい。これがクラスでの評価で遅刻常習犯。でも、あまりに影が薄いために、担任に気づかれないという哀しみのセンテンスを背負っている。
が、サミの印象は少しばかり違う。ちょっとばかし、いや、すこぶる。ああ、この際、表現方法なんかどうでもいいのに。頭が混乱しているせいだろうか。それとも、聴きたくもないアイドルグループの曲を頻繁に聴いて入いるせいかもしれない。どちかといえば、ピアノを攻撃的に使う曲が好きなのに。まあ、日本ではあまりないんだけど。
サミは深呼吸をし、思考をクリアにし、現実を直視した。
そう、シュンイチはわざと根暗でダサい装いをしていると思っている。
数日前のことだ。サミは忘れ物を取りに教室に戻った。快活な声が聞こえた。サミは覗く。そこにはシュンイチ?が電話をしていた。しかし眼鏡を外している。根暗は影を潜め、笑みが溢れている。その横顔はアイドルグループ『アイズ』の一人であるシチに似ていた。クールな眼差しがそれを象徴している。
「明日の音楽番組・・・」シュンイチの声が止まった。サミと目が合う。気まずい沈黙。思考が交錯する沈黙。
「影のシュンイチ?」とサミ。慌ててシュンイチが眼鏡を掛け、人差し指を唇にあて、教室を立ち去った。
内緒に?
あれはそういう合図だろうか。合図にアイズ。サミの疑惑は確信に向け、加速した。
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