02-髪を切るということ

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3年間の9月。私はJさんに髪を切ってもらいカラーをして、つまりイメチェンをして、離婚届を出した。Jさんは旦那さんと離婚をして心機一転この店を出した。その二つがちょうど重なってお互いを励ましあってから、戦友のような親近感がお互いにある。 離婚したとき友人から「子供がいなくてよかったね。」といわれることが辛かった。子供がいたら結論を変えることができたかもしれないという思いと私は誰かの子供ではなくあの人と私の子供が欲しかったのだという思いを理解してくれる人はいなかった。 でもJさんは私にそんなことを絶対に言わない。シングルマザーになって大変だということは言う。でも私のことを羨んだりは、しない。大変さがあっても子供から力をもらっている。子供がいるから頑張れる。そういう自覚があの人の中にある。そうでなければ離婚の調停を進めながら独立開業なんてできるわけがなかった。開業の大変さも離婚協議の辛さも私は両方知っているからこそ、それを同時にこなした彼女を素直にリスペクトすることができるのだ。 彼女に髪を切ってもらいながらざっくばらんに色んな話をした。この三年で彼女は子供を送り出し恋をしてその恋を終わらせていた。店も来るたびに少しずつだけれど変わっていってる。あの幼児コーナーは確か前来た時にはなかった。Jさんは自分の人生を前に進めている。 私は前に進めているのだろうか。三年前に出来ていて今できないことはたくさんあるのに、その逆はあまり思いつかない。他の誰かだったら妬んだり羨んだりして惨めな思いをしたに違いないけれど、Jさんに対してはそういう思いを抱くことはない。素直に自分との違いを受け入れることができる。 私もJさんのように自分の人生を前に進めたい。次の予約が入っている10月には私にも何かJさんに報告できることが出来ているといいのだけれど。
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